東京高等裁判所 昭和38年(ネ)1380号 判決
一 控訴人が、現に昭和三一年七月一〇日登録出願、昭和三二年九月一一日出願公告、昭和三三年一月二九日登録に係る甲実用新案「納豆包装苞」の権利者であること、及び被控訴人らが現在別紙(一)の(イ)号図面及び説明書記載の構造を有する本件物件を製造、販売していることは、当事者間に争いがない(なお、控訴人は当審に至り控訴人の有する甲実用新案の侵害物件を別紙(一)のとおり明らかにしたのであるが、右が実質上原審において控訴人が侵害物件として主張した原判決添付別紙(2)号図面の物件と同一であることは、本件弁論の全趣旨及び訂正前と訂正後の両図面を対比することにより明らかである。)。
二 成立に争いのない甲第二号証(甲実用新案公報)によると、その「登録請求の範囲」の項には、「図面に示すとおり藁の両端に近く二本の細い針金2、3を相接近せしめて設け、これを経糸として織成せる苞1の両縁中央部に小口片5、5を取付けたる納豆包装苞の構造。」(別紙(二)の図面参照)と記載され、また、「実用新案の説明」の項には、本考案の課題とその解決手段ないし作用効果について、「本案は納豆包装用の苞に関する考案であつて、従来経木を使用し又は藁を使用したものもあるが、極めて不体裁不完全で且製作に手数がかかることに着目し、細い針金を以つて莚織機を用い莚の大きさに織り、これを所要の寸法に切断し、更に両端中央部に、同様の方法にて製作した小口片を設けたものである。(中略)本案は斯る構造となしたる為従来農家に概ね所用される莚織機を使用することが出来、又大量に(二四苞分)苞が製造され且三六番程度の針金を使用することによつて製品の具合もよく材料費は遙かに軽減される。特に針金を使用した為単に針金の切断された先端を折曲げることによつて切断部の織目のほぐれを止めることが出来ることは本考案の特異とする効果であつて手数を省略することが甚しい。又織目が整然とする為体裁よく食卓上に置くも何等不快を感ずることない等種々なる効果を有す。尚小口片5、5はこれを中央部より二つ折としこれを再び苞1に垂直になるよう折り起してその両小口片の中間に煮豆を盛り苞1の両縁を折合せて閉じ締め輪を以つて締め、第4図の如く体裁のよい納豆包装を完成することが出来る。(下略)」と記載され、これに別紙(二)のような図面が記載されていることが疎明されるところ、右一応の認定事実に基づいて判断すると、甲実用新案は「納豆包装苞」の構造に関するもので、その考案の要旨は、
(一) 藁の両端に近く、二本の細い針金を相接近させて設け、これを経糸として苞を織成していること、
(二) 苞の両縁中央部に小口片を取り付けていること、
の二要件からなるものと一応認められる。
なお、被控訴人らは小口片の取付位置は公報図面に図示されている箇所に局限すべきであると主張するが、公報図面は一実施例にすぎず、登録請求の範囲に「苞1の両縁中央部に小口片5、5を取対け………」と記載されているのみである点及びさきに一応認定したような小口片の使用方法ないし作用効果に徴すると、小口片の取付位置は苞の両縁中央部であれば右の小口片の使用方法に格別の支障を生じない限り、苞の両端に近い針金の経糸に接着して設けようと、経糸上に設けようと(甲実用新案の図面第三図は、この場合に当たるものと認められる。)はたまたその内側に設けようと、この点何ら限定はないものと解すべきであるから、被控訴人らの右主張は採用の限りでない。
三 一方、控訴人が甲実用新案の侵害物件として主張する本件物件は別紙(一)の図面及び説明書に照らすと、納豆包装苞であつて、その構造を分析すると、
(イ) 藁の両端に近く、三本の細い針金を相接近させて設け、これを経糸として苞を織成していること、
(ロ) セロハンフイルムの外皮をもつて内片を破覆した小口片を、苞の両端中央部に近い針金経糸の内側約一糎の箇所にホツチキスをもつて取り付けていること。
を構造上の要件としていることを一応認めることができる。
四 そこで、甲実用新案と本件物件の構造とを対比するに、両者ともに藁を基本材料とし、これを細い針金でもつて苞を織成した点及び苞の両縁中央部に小口片を取り付けた点において一致するが、苞を織成するに用いる針金が前者は二本であるに対し後者は三本である点において、また、苞の両縁中央部に取り付けた小口片に後者にあつてはセロハンフイルムを破覆し、かつ、その取付位置は苞の両端に近い針金経糸の内側約一糎の箇所であるに対し、前者にあつてはそれを特に要件としていない点において相違すること明らかであるから、以下この相違点について審究する。
(一) 苞を織成する針金の本数の相違について。
さきに一応認定したところから明らかなように、甲実用新案は、従来の納豆包装が材料として経木を使用し、又は藁を使用したものもあるが、極めて不体裁不完全で、かつ、製作に手数がかかる欠点のあることから、この欠点を除くことをもつて考案の課題としたものであり、この課題解決の手段として、農家で一般に使用されている莚織機を用い、細い針金をもつて藁を莚の大きさに織り、これを所要の寸法に切断し、さらに、その両縁中央部に同様の方法で製作した小口片を設ける構成とし、なお、苞を織成するのに針金二本を用いることを要件とすることにより苞を切断した際に針金の切断された先端を折り曲げて切断部の織目のほぐれを止めることができる特異の作用効果をも奏することができるものであるところ、その成立に争いのない乙第一号証(本件物件が乙第一号証記載の乙実用新案を実施するものであることは、後に述べるとおりである。)及び本件物件であることに争いのない検甲第一号証によると、本件物件は苞の織成に三本の針金を用いた結果、針金二本の場合に比べ苞をしつかりと織成することができ、かつ、苞を所要の寸法に切断した際に甲実用新案のようにほぐれを止めるために針金の先端をまげたり、撚つたりする必要がなく、そのまま使用することができ、加工上の手間を省きうる作用効果があることが一応認められ、この点甲実用新案の欠点を改良したものであり、作用効果において甲実用新案よりすぐれたものがあることは明らかであるといえる。被控訴人らは、苞を織成するうえにおいて、針金を二本から三本にすることによる上記の作用効果上の差異は、織成構造の本質的な差異によるものであり、自然法則の利用手段を異にし、二本に一本を加えるというような程度の差異ではないと主張する。しかしながら、当審証人浜野金三郎の証言及び同証人の証言により成立を認めうべき甲第一二号証を参酌して考えると、苞を織成するうえにおいて針金三本を用いることによる叙上の効果は、二本の針金による織成上の効果と全く無関係に生ずるものとは認め難く、むしろ、二本の針金による織成上の効果を利用し、さらに一本の針金を加えることによる相乗的効果として生ずるものとみるのが至当であるから、本件物件が苞を織成するうえにおいて針金三本を用いている点が甲実用新案を利用したものではないという被控訴人らの右主張は採用できない(なお、乙第五、第六号証の各記載及び原審証人日下繁の証言は、右と異なるが、当裁判所これを採用しない。)。
(二) 小口片にセロハンフイルムを被覆し、かつ、小口片の取付位置が異なる点について。
本件物件の小口片にはセロハンフイルムが被覆されており、また、小口片が苞の両端に近い針金経糸の内側約一糎の箇所にホツチキスで取り付けられていることは、前記一応の認定のとおりであるが、前説示のとおり甲実用新案は小口片を苞の両縁中央部に取り付けることを要件とするのみであり、小口片にセロハンフイルムを被覆するかどうか、小口片の取付箇所が苞の両端に近い針金経糸に接着したところか、その内側であるかを問わないし、また、その取付方法も限定されていないから、本件物件の小口片の取付けに関する構成が甲実用新案の上記要件を充足することは明白である。
してみれば、本件物件は甲実用新案の考案の要旨とするところをすべて具備しているから、その技術的範囲に属するものといわなければならない。
五 被控訴人らは、本件物件は被控訴人新興産業の有する乙実用新案の実施品であり、被控訴人新興産業は右権利に基づき、またその余の被控訴人らは、被控訴人新興産業から右実用新案につき通常実施権の許諾を受けて実施しているものであるから、被控訴人らの本件物件の製造、販売は違法ではないと主張し、本件物件が乙実用新案と同一の構造及び作用効果を有し、その実施品と認むべきことは、前記乙第一号証の記載に照し明白である。しかしながら乙実用新案が甲実用新案の登録出願の日より後の出願にかゝるものであることは、その成立に争いのない甲第一号証、乙第二号証の記載に徴し明らかなところ、乙実用新案は甲実用新案の考案の要旨とするところをすべて具備し、ただこれの欠点を改良しその点において何分かの優れた効果を有するに至つたものであることは、さきに乙実用新案の実施品である本件物件と甲実用新案とを対比しての判断と全く同一であるから、乙実用新案は甲実用新案を利用するものというべく、その権利者は、甲実用新案の権利者である控訴人の実施許諾がない限り、これを実施することができないものといわなければならない。(被控訴人らが甲実用新案の実施について控訴人の許諾を受けていないことは、弁論の全趣旨に徴し明白である。)
被控訴人らは、特許庁が乙実用新案の審査に当たり、その説明書に考案相互の関係の項目挿入の指令を発しなかつたことは、乙実用新案が甲実用新案を利用したものでないことを示すものであり、したがつて、本件物件は甲実用新案の技術的範囲に属しないものであると主張するが、実用新案の説明書に考案相互の関係の項目の記載がないからといつて、他の実用新案を利用したものではないと断定しえないことは多言を要しないのみならず、前記乙第一号証によれば、乙実用新案の説明書中「実用新案の説明」の項の冒頭に、「本案は登録実用新案第四七〇、九四五号(本件における甲実用新案にあたる。)を改良したもので、以下図面について説明する。」と記載してあることが認められ、この記載は「考案相互の関係」を記載したものと解しえないものではないから、そのいずれからしても、この点に関する被控訴人らの主張は、これを採用することができない。
六 被控訴人らが現に本件物件を製造販売していることは前記のとおり当事者間に争いがなく、この事実から被控訴人らが本件物件を占有、所有し、又は頒布していることは容易に推認できるところ、本件物件が甲実用新案の技術的範囲に属することは前説示のとおりであるから、被控訴人らの本件物件の製造、販売行為は甲実用新案を侵害するものと一応いうことができ、また、被控訴人らの占有、所有する本件物件は侵害行為を組成したものということができるから、控訴人は被控訴人らに対し本件物件の製造、販売又は頒布の差止め、被控訴人らの占有する本件物件の既製品及び半製品の廃棄並びに本件物件の製造に供した機械器具等の除却を求める権利を有するものと一応認めることができる。
七 当裁判所においてその成立を認める甲第三号証、原審証人武藤秀正及び同斉藤安美の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は甲実用新案の納豆包装苞を月約一〇〇万個製造し、主として東京都内、北海道、茨城県一円及び栃木県の一部に販売しているところ、被控訴人新興産業はその余の被控訴人らに多数の本件物件を製造させ、右製造した本件物件を東京都内、茨城県、栃木県等に販売しており、これを継続させるときは控訴人において著しい損害を蒙るおそれがあることが疎明されるから、控訴人は主文第二項掲記の仮処分を求める必要性があるものと一応認められるが、本件物件の製造に用いる機械器具一切を執行吏の保管に付することを求める部分は右機械等が莚織機又はその附属器具であり、他に転用できる性質のものであること等に鑑み、その必要性がないものというべきである。
八 以上説示のとおりであるから、控訴人の本件物件に対する仮処分申請は、控訴人において被控訴人らに対し共同保証として金五〇万円を供することを条件として主文第二項掲記の仮処分を命ずる限度においてこれを認容すべきも、その余の申請は、その必要性を欠くものとして、これを却下すべきである。
したがつて、この範囲において原判決中原判決添付別紙(2)号図面及び説明書記載の納豆包装苞に対する申請を却下した部分を変更する。
〔編註〕本件に関する図面および説明書は左のとおりである。
別紙(一)
(イ)号図面
<省略>
<省略>
(イ)号図面の説明書
一、図面の簡単な説明
図面は納豆包装苞を表わし、第一図は全体を展開した一部切截平面図、第二図は藁を織成した側面図、第三図及第四図は同断面図、第五図は小口片を立て納豆の包装状態を示す斜面図、第六図は同包装した所を示す斜面図である。
二、構造の説明
藁の両端に近く三本の細い針金(1)´、(2)´、(3)´を相接して経糸とし、その内の二本(1)´(3)´は藁の一方の側に、又中央の一本(2)´は他方の側に配置し且つ藁の中央部に織通した綿糸(8)´を経糸となして織成した苞(a)´の両端中央部にセロハンフイルムの外皮(4)´を以て内片(5)´を被覆した小口片を苞(a)´の両端に近い針金経糸の内側約一センチの個所に於て一ケ所ホツキチス(6)´を以て締着するものである。
尚(7)´は藁、(8)´は苞の中央部に織通した綿糸、(9)´は護謨輪、(10)´は納豆を示す。
別紙(二) 控訴人の有する登録第四七〇九四五号実用新案
<省略>